
なぜ日本品種が外国に流出したのか?そして味・糖度・価格はどう違うのか?
最新の国際事情を徹底解説します。
1. シャインマスカットが外国に流出した経緯
農研機構(NARO)が開発した新品種で、香りが高く、皮ごと食べられ、糖度が18度前後という高級ブドウです。しかし、日本が海外での品種登録を行わないまま国内販売を開始したため、海外での知的財産権(品種登録権)が未保護の状態になっていました。
その結果、苗木や穂木が海外に流出し、中国や韓国などで無断栽培されるようになったのです。
当時の日本は「国内優先」で海外流出リスクを軽視していた背景もあり、これがのちに「農業版の知財流出事件」として大問題になりました。
2. 中国と韓国での栽培拡大の実態
● 中国:国家規模の大量栽培へ発展
中国では「陽光玫瑰(ヤングアンメイグイ)」という名で生産されており、
2007年ごろから広東省・四川省・山東省などで急速に普及。
2020年時点で約5.3万ヘクタールが栽培されており、日本国内の約30倍に達します。
見た目は日本のシャインマスカットに酷似していますが、味や品質にはばらつきがあり、
糖度・粒の張り・香りの点で“当たり外れが大きい”と指摘されています。
▶ 産地卸価格は 1kgあたり4〜10元(約80〜200円)まで下落。
▶ 都市部の高級スーパーでは15〜20元/kg(約300〜400円)で販売。
こうした過剰供給の影響で、中国国内では「陽光玫瑰バブル崩壊」と呼ばれる価格暴落も起きました。
● 韓国:ブランド化に成功し高値販売
一方の韓国では2010年代からシャインマスカットが急拡大。
現在では約2,500ヘクタール以上が栽培され、
「輸出用高級フルーツ」として香港・シンガポール・ベトナムなどに輸出されています。
韓国では“見た目と糖度”にこだわった選別・間引きを行い、
糖度21〜22度のプレミア品も多く、結果的に1kgあたり2,000〜3,000円で販売。
海外では日本産を上回る価格で取引されることもあります。
3. 海外産と日本産の味の違い
しかし海外産(特に中国・韓国)では、味の再現性に差が見られます。
| 産地 | 味・香り | 食感・皮 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 日本産 | 香り高く、甘味と酸味のバランスが抜群 | 皮が薄く、粒張り良好 | 熟度18〜20度で収穫 |
| 韓国産 | 甘味は強いが香りがやや弱い | 皮が厚めで弾力が強い | 輸出用に糖度21度以上狙い |
| 中国産 | 甘いが酸味が少なく、香りが弱い | 粒が柔らかく、水分が多め | 管理差が大きく品質ばらつき |
日本産は“香り”と“皮ごとの食感”が特徴ですが、
中国産・韓国産は外観重視・量産型のため、完熟前に収穫される傾向があり、
「見た目は似ているが、味の深みが違う」という声が多く見られます。
4. 糖度(Brix)・食味データの比較
果実の甘味を表す「糖度(Brix)」で比較すると次のようになります。
| 産地 | 平均糖度 | 備考 |
|---|---|---|
| 日本産 | 18〜20度 | 群馬・岡山などで18度到達を収穫基準 |
| 韓国産 | 18〜22度 | 満開後20〜22週で最高糖度に到達 |
| 中国産 | 17〜24度(幅大) | 地域差が大きく、酸味が少ない傾向 |
見た目や色よりも、糖度の安定性が品質を左右します。
日本産は収穫時点でほぼすべてが18度を超える一方、
中国産は17度以下の未熟果が市場に混在するケースもあり、品質差を生んでいます。
5. 価格差:日本産・韓国産・中国産の販売金額
ここ数年、最も興味深いのは「価格構造の逆転」です。
| 産地 | 価格(kg換算) | 備考 |
|---|---|---|
| 🇯🇵 日本産 | 約2,500〜4,000円/kg(高級ギフトは6,000円超) | 晴王ブランドなど |
| 🇰🇷 韓国産 | 約2,300〜3,000円/kg(輸出時は5,000円超) | 輸送・検疫コスト込み |
| 🇨🇳 中国産 | 約100〜450円/kg | 過剰供給・価格下落中 |
つまり、**韓国産は実質的に「第二の高級ブランド」**となっており、
中国産は逆に「低価格帯の大衆果実」になっているのが現状です。
6. なぜ韓国産が高く、中国産が安いのか
● 韓国産が高い理由
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輸出重視戦略:海外富裕層向けに高糖度・高外観のプレミア商品を出荷。
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ブランドマーケティング:「K-フルーツ」ブームを背景に高価格帯でも売れる。
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量より質の農法:1房ごとに粒を減らして大粒化し、糖度を上げる。
結果、香港やシンガポールでは1房5,000円〜1万円で売られる例もあります。
● 中国産が安い理由
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爆発的生産拡大:数年で数十倍の農地拡張により供給過多。
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品質バラつき:管理・収穫熟度が一定せず、糖度・粒の均一性が低い。
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価格競争:農家間の値下げ合戦で市場崩壊状態に。
2024年には「陽光玫瑰の価格が白菜以下」という極端な報道もありました。
7. 日本農業が受けた損失と法整備の課題
しかし、海外登録を怠ったため、推定数百億円以上の損失が出たといわれています。農林水産省もこれを重く見て、2021年に「種苗法改正」により、登録品種の海外持ち出し禁止を明文化しました。
今後は「ルビーロマン」や「ゆめみのり」などの新品種では、海外流出を防ぐ体制が整いつつあります。
8. まとめ:日本ブランドを守るために必要なこと
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日本品種の早期国際登録(UPOV加盟国での権利確保)
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農家への知財教育(苗木や穂木の輸出リスクの認識)
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ブランド管理の国際協調(JAPANブランド輸出戦略)
シャインマスカットの海外流出は、
単なる果実の問題ではなく「日本農業の知財保護・国際競争力」の象徴的事件です。
いまや“日本の味”が世界に広まった一方で、
“本家日本”が利益を得られない構造が出来上がってしまいました。
これからは、日本ブランドを守りつつ、世界に誇る品種を正当な利益のもとで輸出する体制が求められています。
まとめ表(要点比較)
| 項目 | 日本 | 韓国 | 中国 |
|---|---|---|---|
| 品種名 | シャインマスカット | 同名/輸出ブランド化 | 陽光玫瑰(Yangguang Meigui) |
| 栽培開始 | 2006年〜 | 2010年代〜 | 2007年〜 |
| 栽培面積 | 約1,700ha | 約2,500ha | 約53,000ha |
| 糖度 | 18〜20度 | 18〜22度 | 17〜24度 |
| 価格/kg | ¥2,500〜4,000 | ¥2,300〜5,000 | ¥100〜450 |
| 主な輸出先 | 香港・台湾 | 東南アジア | 東南アジア・中東 |
| 評価 | 香り・甘味・外観が最高 | 見た目良好・やや香り弱い | 甘いが香り薄くばらつき大 |
シャインマスカットは、いまや日本だけでなくアジア各国が競う“高級フルーツ市場の主役”となりました。
しかしその裏には、日本が築いた技術が海外で無断利用される現実もあります。
今後の課題は、品質と知的財産の両立。
「本物の日本産」を守る取り組みこそが、次の時代の農業価値を決めるのです。



