シャーロット・ケイト・フォックス、朝ドラ『ばけばけ』で再び脚光

 

 

2014年に放送されたNHK連続テレビ小説『マッサン』は、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝と、その妻リタをモデルにした物語。
そのリタ役“エリー”として抜擢されたのが、アメリカ出身のシャーロット・ケイト・フォックスでした。オーディション時、彼女は日本語がまったく話せず、英語でセリフを伝えるしかなかったといいます。
にもかかわらず、審査員全員の心を動かし、見事にヒロインの座を射止めました。
彼女の「理解できない言葉でも、感情で伝えようとする姿勢」は、作品そのものが持つ“異文化理解”というテーマと深く重なり、視聴者の心に強く残りました。

放送が始まると、その自然な演技と純粋な笑顔が話題を呼び、『マッサン』は高視聴率を記録。
彼女は一気に“日本中が知る女優”となり、NHK紅白歌合戦にも出演。
「エリーちゃん」として親しまれる存在になりました。

『マッサン』が特別だったのは、NHK朝ドラ史上初の“外国人ヒロイン”であったこと。

当時、視聴者の多くが「英語のセリフが自然に物語に溶け込む」という点に驚き、SNS上では「新しい朝ドラの形」として絶賛の声が相次ぎました。

また、フォックス自身の努力も話題に。
撮影期間中は毎日日本語の発音を練習し、スタッフと筆談を交えながらコミュニケーションを取ったといいます。
彼女の言葉にはこうあります。

「最初は“ありがとう”すら言えませんでした。でも、みんなが私を信じてくれた。それが何よりの励みになりました。」

このエピソードが報じられるたびに、日本人の間では“努力と挑戦の象徴”として彼女の名が語られるようになりました。

一方で、突然のブレイクが彼女に大きなプレッシャーを与えたのも事実です。

2016年ごろ、テレビ出演やCM契約が相次ぐ中で、彼女は次第に「自分の居場所を見失っていった」と語っています。
日本語の壁、文化の違い、そして“成功した外国人女優”としての期待――それらは時に重荷となりました。

2018年、彼女は活動を一時停止し、アメリカへ帰国。
その後は演劇学校で指導を行ったり、舞台活動に専念するなど、より原点に立ち返った時間を過ごします。

「“有名になること”と“表現すること”は違う。
私は再び“表現者としての自分”に戻りたかったんです。」

この言葉からは、名声よりも“本質的な演技”を求める彼女の誠実さが伝わってきます。

フォックスのもう一つの顔は、舞台女優としてのキャリア。
彼女はブロードウェイで上演された名作ミュージカル『CHICAGO（シカゴ）』に出演し、その存在感を再び世界に知らしめました。ブロードウェイのステージに立つ――それは多くの俳優にとって“夢の頂点”。
だが、彼女にとってはそれが“新たな出発点”でもありました。

「ブロードウェイでは、誰もが本気で自分を表現している。
言葉の壁ではなく、魂でつながる世界でした。」

この経験は、彼女に“国境を越えた表現”という視点を与え、日本での演技に新たな深みをもたらすことになります。

そんな彼女に大きな転機が訪れたのは、母親になってから。
出産と子育てを経験したことで、「人の感情をより繊細に感じ取れるようになった」と語ります。「子どもを育てる中で、人生の“リアルな喜びと痛み”を学びました。
それが今、女優としての私の表現に深く影響しています。」

母としての経験は、彼女の演技に温かさと奥行きを加えました。
“完璧でないこと”を恐れず、むしろ“人間らしさ”こそが魅力だと気づかせてくれた――そう語るフォックスの表情は、以前よりもずっと穏やかです。

そして2025年、待望のニュースが舞い込みます。
NHK朝ドラ『ばけばけ』にて、彼女が5年ぶりに女優としてカムバックすることが発表されました。
演じるのは、イギリス出身の考古学者・イライザ・ベルズランド役。
異国の地・日本で古代文化と人々に触れ、成長していく知的で自立した女性という設定です。フォックスはインタビューでこう語っています。

「お芝居をするのは5年ぶり。
でも不思議と、まるで“帰ってきた”ような感覚でした。」

この言葉には、日本のファンやスタッフとの再会を喜ぶ気持ち、そして再び演じる喜びがにじんでいます。

彼女が演じるイライザは、まさに“かつてのエリー”と重なる部分もあり、視聴者の間では「再び朝ドラの奇跡が起きるのでは」と期待が高まっています。

シャーロット・ケイト・フォックスは、単なる“外国人女優”ではありません。
彼女は日米文化の架け橋として、互いの違いを肯定し合う姿勢を示してきました。

SNSでは、母国アメリカのファンと日本のファン両方に向けて発信を続け、Instagramでは日本語と英語を交えた投稿を行っています。
時には京都や北海道など、かつて暮らした日本の風景を紹介し、「Second home（第二の故郷）」と表現することも。

「日本は、私の心の一部です。
私を成長させてくれた大切な場所。」

こうした言葉が、彼女が本当に日本を愛している証拠です。
その真摯な姿勢が、多くの日本人の共感を呼んでいます。

『ばけばけ』を皮切りに、今後は映画や舞台など、新しいジャンルにも挑戦していく意向を示しているフォックス。
また、音楽活動の再開も検討していると報じられています。彼女の歌声は、かつてアルバム『Wabi Sabi』で披露された柔らかなトーンが印象的でした。
「音楽と演技を融合させた表現を再びしたい」と語る彼女の目には、新たな輝きが宿っています。

「長い時間がかかったけれど、今はもう一度“伝える人”として生きたい。
それが、私の人生をここまで導いてくれた答えなんです。」

日本語が話せなかった一人の女性が、日本の朝を変えた。
そして今、母となり、再び女優としてスクリーンに戻ってくる――。
それがシャーロット・ケイト・フォックスという人間の、何よりの魅力です。

彼女が歩んだ道のりは、私たちに「挑戦することの尊さ」「異なる文化を受け入れる勇気」を教えてくれます。
『マッサン』で生まれた奇跡が、『ばけばけ』で再び息を吹き返す――。
その瞬間を、もうすぐ目撃できるでしょう。