
これに対し、過労死弁護団などの団体が強く抗議を表明。
SNSでも賛否両論が巻き起こっており、日本社会が長年取り組んできた働き方改革との整合性が問われる事態となっています。
本記事では、発言の経緯や抗議の内容、世論の反応、過去の類似発言との比較、専門家の見解を交えながら詳しく解説します。
1. 高市早苗総裁の発言内容

2025年10月、自民党総裁選を経て新たに総裁となった高市早苗氏は、就任直後のあいさつで次のような発言を行いました。
・「馬車馬のように働いていただきます」
・「ワークライフバランスという言葉を捨てる」
・「働いて、働いて、働いていきます」
この発言は、自民党所属議員に対する決意表明とされ、党の再建に向けて強い意志を示すものでした。
しかし「ワークライフバランスを捨てる」という表現は、多くの国民に強い印象を与え、メディアやSNSで一気に拡散。
ニュース番組やネット掲示板、X(旧Twitter)でも議論が沸騰しました。
2. 過労死弁護団による抗議声明のポイント
この発言に対し、過労死等防止対策に取り組む「過労死弁護団」などが抗議声明を発表しました。
声明では次のような点が問題視されています。
主な批判点 | 内容 |
---|---|
長時間労働の助長 | 「馬車馬のように働く」という表現が、過重労働を当然とする風潮を強化しかねない。 |
制度・理念への逆行 | 過労死防止法や働き方改革の流れと真逆のメッセージになる。 |
精神主義の復活 | 旧来的な根性論・精神論を政治の場で肯定することになりかねない。 |
社会全体への波及 | 議員に向けた発言でも、総裁という立場から社会全体に影響が広がる懸念がある。 |
過労死弁護団は、2014年の「過労死等防止対策推進法」の成立に深く関わってきた団体でもあり、「この発言は極めて重大な問題であり、撤回を求める」と強い調子で抗議しました。
3. SNSと世論の反応:賛否が分かれる背景
■ 批判的な意見
X(旧Twitter)やYahoo!ニュースのコメント欄などでは、発言に対して批判的な声が多く見られました。
「過労死が社会問題になっているのに、この言葉は軽率すぎる」
「議員の覚悟を示したつもりでも、企業経営者や社会に悪影響を与える」
「時代錯誤の精神論。ブラック企業を助長する発言だ」
特に「ワークライフバランス」という言葉は長年にわたって政策・企業努力で普及してきたキーワードであるため、これを「捨てる」と言い切ったことに対して拒否感を抱く人が多かったようです。
■ 賛同・擁護する意見
一方で、一定数の支持や擁護の声もあります。
「政治家が自分たちを鼓舞するのは当然」
「議員に対して言っただけで、国民に強制しているわけではない」
「今の自民党にはそれくらいの覚悟が必要」
つまり、発言の対象(議員か、国民全体か)と、文脈の捉え方によって評価が大きく分かれているのが特徴です。
4. 過去の政治家による「働き方」に関する発言との比較
例えば:2017年:安倍晋三元首相は「長時間労働の是正を進める」として働き方改革を政策の柱に掲げた
2019年:経済産業省幹部が「24時間戦えますか」という企業CMを例に出し、「今の若者には響かない」と発言して話題に
2021年:当時の自民党幹部が「公務員はもっと働くべき」との発言で炎上
これらはいずれも、労働環境や社会の空気感との乖離があると批判を受けています。
今回の「ワークライフバランスを捨てる」というフレーズは、そうした過去の“炎上発言”を想起させたという声もあります。
5. 専門家の見解と今後の注目点
労働問題に詳しい専門家は、この発言について次のように指摘しています。
「議員に向けたメッセージだったとしても、総裁という立場での発言は社会全体に広がる。発言の影響力を軽視すべきではない」
「日本ではいまだに過労死が年間100件以上報告されている。政策と逆行するような発言は慎重であるべき」
「“働く覚悟”を示すなら、議員の働き方改革や透明性の向上とセットで伝えるべきだった」
また、企業の人事担当者や経営層からは、「政治家の発言が企業風土に影響を与える可能性があるため注視している」という声も聞かれます。
まとめ
高市早苗総裁の「ワークライフバランスを捨てる」発言は、政治家としての覚悟を示す意図があった一方で、過労死防止や働き方改革という社会の流れと真っ向から衝突し、多くの批判と懸念を呼びました。
SNS上でも賛否が分かれ、過去の炎上発言とも重ね合わせる声が出るなど、単なる一言では片付けられない論点が浮かび上がっています。
今後は、高市氏がこの発言の真意や政策方針をどのように説明・修正していくかが注目されます。
政治家の言葉には、社会全体の価値観を左右する力があります。
今回の問題は、単なる「失言」ではなく、働き方や価値観をめぐる日本社会の根本的な議論へとつながっていく可能性があります。